訪問看護ノート 1999.6.8/cn19990608-1 五十嵐 直敬 訪問看護の特性 1.対象者の特性  訪問看護の対象者 = 「在宅の」健康に問題がある人 患者 介護者 家族  !対象者は施設でも在宅でも基本的に同じ  在宅療養者  = 基礎疾患がある高齢者(虚弱老人) 寝たきり老人 難病患者 身体障害者    小児難病患者 障害児 周産期の母子(異常者) 等  現在、在宅療養者の多くは高齢者(65歳以上)  < 国・厚生省の老人医療費抑制施策(新ゴールドプラン) < 老人保健法  今後、全世代について在宅療養ニーズの増大が予想される  < 日帰り手術 在宅高度医療の普及 少子化 国の施策(=医療費抑制) 2.看護の場としての特性    1)医療・看護の場はどこか    施設医療 = 病院 診療所 老人保健施設 老人ホーム 企業 教育機関 等    在宅医療 = 患者様のご自宅 ご家庭 ご家族との生活の場  2)医療の場としての特性   a)作業環境・効率     一般住宅 = 医療・看護の場として整備された場所では「ない」     > 設備備品は不充分 > 作業効率は低下しがち やりにくい      > 設備備品の不足を補う工夫が必要      !本当に必要な事は何か 本質は? 省けるもの・妥協できるものは何か     1回の訪問看護は30〜90分 > 時間的には余裕がある その方に専念できる   b)個性・生活との並存     家庭 = 住み慣れた「城」「自分の居場所」     > 医療の場である以前に利用者様の「生活の場」「その人らしい・・・」      > 生活が医療・看護より優先・重視される場合が生じる     利用者様の生活の支援 > 利用者様の生活に合わせたスケジューリング     !病棟業務やオペ日程など医療中心なスケジューリングとは対極   c)医療管理上の危険性     医師など支援スタッフが近くに不在 モニタなどもまずない 検査も時々だけ     > データ不足 訪問ナース単独での判断・処置を迫られる      > 不適切な判断・処置は患者様を危険に陥れる      !少しでも迷ったらすぐ職場か主治医に報告・相談      !文字通り「手を目にして看る」センスを武器にする最高度の看護でもある     医療者が常時支援することができない 夜間 時間外 休日     > 急変時などの対応 普段からの「もしもの時は」という利用者様の不安     !予め急変時対応・連絡体制などを相談しておくことが重要   d)物理的・人間関係的な危険性     一般住宅 = 処置・療養生活に必要な設備が不備     > 環境要因による事故発生の危険性     利用者様のご自宅 = 隔離された密室でもある     > 外部の目が届かない      > 看護の客観的評価が困難 > 看護者の独善 成果が出ない マンネリ      > 防犯の必要性 セクシャルハラスメントの防止  3)人間関係上の特性   a)施設医療     患者が医療を求めて身を預ける     > 医療・医療者が中心 医療・治療が中心・優先      > 患者は我慢もある程度は覚悟 「治療のためなら」「病院だから」      > 医療者が指導者・権力者・保護者 > 優越的・権威的態度     !医療もサービスとして選ばれるようになりつつある     「金払って威張られたり子供扱いされて辛い処置と不自由はイヤ」   b)在宅医療     利用者様が住み慣れたご自宅で療養し生活するために「選んで使うサービス」     > 利用者様の生活・習慣の尊重が優先 医療主体ではなく生活主体の計画     ! 医療・看護は生活の一要素に過ぎない      > 患者である以前に家庭人・社会人・人生の先輩・家庭の主体者 = 主       > 家の主・人生の先輩に対する礼節が必要 社会人としてのお付き合い       !訪問ナースは利用者様にとってゲストでもある しかし友人とは違う     意図せず早期退院となった場合など利用者様の主体意識が低い場合     > 在宅療養への拒否的感情 > 依存 虐待 無関心 < 適切なケア 調整     > 生活を他人に依存する弱み > 看護者の独り善がり 3.対象となる状態  1)健康レベル    施設看護 > 傷病(急性期・慢性期・回復期) 予防教育少し    在宅看護 > 傷病(慢性期・回復期) 日常的な予防教育    在宅では急性期はあまり扱わない < 物理的制約のため 対応体制・設備無し    疾病・障害の発生・増悪予防の比重が増加    > より長くより良い状態で過ごせるように 入院しないように  2)在宅で多い疾患    在宅特有の疾患はない 疾患の慢性期・安定期 医療処置が少ない状態    > CVA後遺症 運動能力障害 慢性胸部疾患 癌末期 痴呆 難病    長期入院が好ましくない場合に在宅療養に移行する場合もある    < 病状固定 積極的治療の終了 入院日数制限 ベッドコントロール    !癌による死亡の増加、在宅死希望により在宅でのターミナルは増える    誰かが媒介しなければ感染はむしろ少ない < 家や家族の細菌叢は常在菌    !医療者が最大の感染源 ではどうする?  3)在宅で多いニーズ    a)リハビリ      寝たきりの予防 ADLの向上 > QOL向上 介護負担の軽減      !「良くなりたい」気持ちは看護者の考え・評価とはまた別    b)入浴介助      運動能力障害 浴室の構造・環境要因 > 自力入浴困難・不安      !ヘルパーは入浴介助はできない 予期せぬ身体の異変の危険性    c)医療処置      褥創処置 カテーテル管理 ストーマケア ペインコントロール支援      HOT 人工呼吸器など在宅高度医療の支援      今後入院日数短縮・「日帰り○○」により医療処置が在宅に出てくる 4.求められるケアの方向性  1)生活の再構築と維持への支援    リハビリ > 元の生活・元の生活に近い満足できる生活の回復    病状コントロール支援 > 苦痛や不安のない生活    医療処置 > 苦痛の除去 生命の危険の除去 日常の生命維持の手段    !「病気を治して、元通りの生活を楽しみたい!」願いの実現を支えること  2)命の終末への支援    死は誰にでも訪れる 様々な苦痛を伴う 様々なものを奪う    安らかに 満足して 最後まで「自分らしく」思いのままに生きるために    病状コントロール支援 > 無用な苦痛を除去する 緩和ケア    心を支えるケア = 「喪失体験」による苦痛の除去 別れの受容への支援    !対象者は患者本人だけではない    医療処置 > 無用な苦痛の除去 できるだけ「良い状態」で過ごせるように    !死を受容することは医療を拒否することとイコールでは「ない」  3)未来ある命への支援    妊産婦 新生児 乳児 幼児 障害児 障害者    護らなければ生きられない命もある それも大切な命 少子化社会では子は宝    体が弱くても障害があっても、生きているということは「生きるべき」存在    > 「より良く その人らしく」へのケア 5.訪問看護ステーション組織・体制・業務の特性  1)小さな独立組織としての特性   a)業務     法律上、訪問看護ステーションは独立した医療機関としての機能を持つ     > 施設備品 業務 医事会計 人事     !医療機関・会社としての機能を全て持つor委託して確保する必要がある      > 訪問ナースがレセプトを書き集金する等「何でもする」 関連事務が多い      !一人の利用者様に充てる時間は長いのでケアには余裕を持てる     業務は看護と付随業務のみ 在宅療養には地域の医療福祉資源の活用が必要     > 他業務は外部組織との連携が必要 医師 行政機関 福祉機関など      > 報告・連絡を正確にするため文書を多く作成する     現在多くの訪問看護は平日の日勤帯のみ 施設により24時間オンコール体制     > 医療機関としては緊急時対応体制にまだ不足がある   b)研修・教育学習・情報収集     経済的に規模が小さく(年間売上1千〜5千万円程度)教育費が確保しにくい     > 雑誌購読・書籍購入などを見送りがち > 新しく正確な情報が不足     研修中の欠員を補充する人的余裕がない > 充分な研修ができない     外での業務なため職員が揃いにくい > 勉強会・カンファレンスを持ちにくい     !職員の資質の向上が図りにくい     MRなど情報提供者が来ない < オーダーを出す医師が不在 = 儲からない     !関係者に情報提供を求める等、情報収集を意識する必要がある     > 普段から関係者と交流を深めることが大切 気軽に情報交換できる「仲間」   c)経済・経営     訪問看護ステーションの場合は独立会計(法的に規定)     医療機関も経営は難しくなっているので独立自立採算が望ましい     > 「看護サービスを提供してお金を頂き自力で稼ぐ」ことが必要      > 看護の質・価値・成果の追求が必要 経営的視点も必要      !経営とは「出る金より入る金を多くすること」  2)関係機関などとの連携   a)主治医・医療機関     「指示書」の発行(毎月) 「報告書・計画書」の提出(毎月)等で連絡連携     主治医との連携は在宅療養の要 状況変化時は電話/Faxなどで素早い連絡も必要     退院患者を訪問に導入する場合はなるべく合同カンファレンスとサマリーを得る     !「阿吽の呼吸」の関係を目指し普段からコミュニケーションを図る   b)行政機関     市町村の福祉部門が直接の関係部門 横浜市では区役所の福祉部(福祉事務所)     各地区担当の保健婦(場合によりケースワーカー)が候補者を紹介     利用者様の状況を「情報提供書」で保健婦に連絡(横浜市は相談調整係)     老人保健サービスの窓口 経済的問題・難病などの場合は連携が必須     !行政は「依頼なければサービスなし」なのでナースから積極的に関わること   c)福祉機関(民間組織・ボランティア含む)     ホームヘルプサービス(ヘルパーステーション) ケアプラザ デイサービス     入浴サービス デイケア 老人保健施設 特別擁護老人ホーム など     導入時はほとんどの場合は行政保健婦を窓口とする 利用手続きも必要     導入後は必要に応じて直接調整 互いに利用者様のニーズに応じて紹介しあう   d)関係業者・近隣の店・住民など     外部の方は貴重な情報提供者 頼りになるパートナー 互いに情報交換を図る     近隣の店などはパンフレットを置かせて頂く・口コミなどPRの助けになる     近隣の業者などと適切な関係を持ち地域の活性化を意識することも必要     ご近所さんなどにもできるだけ協力を得る 知って頂くだけでも心強いもの @総括 看護面  訪問看護は特殊な看護ではない  看護・医療の場がご自宅 > 医療中心から利用者様と生活中心への発想転換が必要  現在の主な利用者は高齢者 今後は全年齢層が対象になっていくと考えられる  ご自宅は医療・看護には設備・体制面では難しい面がある  > 何が本当に必要な医療・ケアか、本質の見極めが必要  ケアには質が要求されるが、それを保つには意識と努力が必要  命の終末と、それに対応するケアを意識する必要がある 業務面  看護と付随する事務・会計・経営は自己完結することが基本  看護以外については外部機関・関係者との連携が必要  > 形だけでなく普段からコミュニケーションし理解しあうことが大切    地域の医療・福祉関係者さらに地域の産業・住民が皆手を取り合うことが大切 以上