訪問看護ノート 1999.6.20/cn19990620-1 五十嵐 直敬 感染防御 1.微生物と病原体の特徴と違い  微生物 = 肉眼では見えない > 機器や検査なしでは存在が確認できない  !見えなくても居る「かも」知れない  > 微生物は見えなくても「いるという前提」での対策 = Standard Pre-Caution   病原体 = 人体に有害な変化を引き起こす微生物  相手により害の有無が異なる 有害無害は相対的  > 健康な人には無害な微生物が致命的な影響を及ぼす場合がある = 日和見感染  Ex. MRSA  鼻によくいる「単なる耐性」ブドウ球菌 健康な人には無害  !自分の体の常在菌が、他人にとっては致命的なこともある  > 「ケアする方・感染の危険があるケア毎に」手洗いする 常在菌も人に移さない 2.感染の過程と意味  1)病原体との接触・汚染    病原体が体表に付着、または体内に侵入する = 汚染    !この時点ではまだ感染は成立していない = 実害は生じない    > 洗浄や消毒で病原体を排除すれば、感染を防止できる  2)感染成立    病原体が体表または体内の免疫システムを突破、増殖    > 病原体が身体機能に変調を引き起こす = 感染症の発症 > 生命の危機    感染が成立するためにはある程度の数の病原体が必要    !生体に影響を及ぼす量の毒素産生・組織侵襲ができる「数の力」を得る数    微生物は増殖に要する時間毎に2つに分裂し倍増する    !1時間で分裂するなら最初の1個が12時間後に4096個    > 感染の危険は病原体の生息密度と汚染からの時間に比例すると考えられる    > 手洗い・消毒をまめにすれば、病原体の増殖の猶予を無くせる  3)保菌者の発生    病原体が体表や体内で生存するが大きな変調を起こさない = 保菌者    症状がないことが多い > 検査しなければ病原体の存在が分からない    !知らないうちに病原体を他人に撒き散らす 誰が保菌者かも不明    > 例外なく対象者毎に手洗いすれば、保菌者に接触しても感染を媒介しない 3.感染の危険  1)時・場所・対象    病原体が生存する身体の部位・分泌物・排出物に触れる時    = 体表 露出した組織 粘膜 口腔 消化管内腔 血液 排泄物 性的分泌液    保菌している患者、またはその着用・所持物品が存在する・した場所    !ケアするためには接触が避けられない    > 汚染が「疑われる」ケア毎に手洗いする グローブなど使う    自力で保清できない対象者は病原体を保菌している危険性が高い    !私達は1日何回手を洗う? 寝たきりの方は?  2)感染経路   a)直接接触     患者の身体 体液 分泌物 排泄物     > そこに生存する病原体が接触した者に付着する     病原体生息密度大 = 感染危険性大   b)間接接触     接触度合いが濃厚なもの 患者の衣服 寝具 整容具(歯ブラシ 櫛など)     > 身体等から物品に付着した病原体がさらに人に付着する     > 病原体が割合に多量に付着 接触したものに伝染する危険性が大     > 病原体密度低 = 感染危険性は直接接触よりは低い     接触度合いがやや薄いもの ドアノブなど手が触るもの     > 身体などにいた病原体が割合に少数付着   c)空気 水 飛沫粉塵 床 = 室内空気 風呂の水 咳     麻疹・水痘・結核など一部の感染力が強い病原体でなければ感染の危険は少ない 3.具体的対策  1)感染経路の遮断「病原体を移動させない」   a)接触の回避     手袋をする 予防着を着る 器械(摂子など)を使用する     > 病原体との直接接触を避ける   b)汚染物品の移動の回避        汚染した手袋や予防着・器械は使用後すぐに廃棄・消毒滅菌・収納     !それらが新たな感染源にならないように  2)病原体の排除「病原体を殺す・居なくする」   a)洗浄(手洗い)     充分な流水は物理的に病原体の密度を薄める     石鹸は界面活性化(溶媒となじませる)により病原体の剥離を助ける     !病原体を身体から引き離す 最も確実で安全な方法 コストも安い   b)消毒     病原体を一部死滅させて感染が成立しない程度の数に減らす     > 生体毒性が弱い化学物質を使うので身体に使える     Ex. エタノール グルコン酸クロルヘキシジン 次亜塩素酸ナトリウム など     消毒薬により有効な病原体が異なる 抗菌スペクトルの違い     !生き残ってしまう病原体もいる     > 標的微生物により消毒薬の選択が必要     強力な消毒薬ほど生体への毒性・悪影響も大きい 適「剤」適所     Ex. 消毒剤の濫用 > 手荒れ > 病原体が生息しやすい状態     消毒薬は有効濃度でなければ無効     > 正しい調製が必須 きちんと計る     消毒薬が病原体に確実に到達することが必須     > 消毒薬を消毒野にむらなく塗布・浸漬し接触させる     !スプレーで服に吹きかけても無意味      > 霧状の消毒薬は点状にむらになって付くので消毒できない部分が多い     > 前処理として充分に水洗いし付着物を落とす     ! 粘液など付着物の下には消毒薬が届かず消毒できない   c)滅菌     すべての病原体を死滅させる     > 高圧蒸気や有毒ガスを使うため生体には使えない     Ex. オートクレーブ エチレンオキサイドガス(EOG) グルタルアルデヒド     蒸気やガス・薬剤がむらなく対象に接触する必要があるのは消毒同様   d)抗生物質・抗菌剤     微生物に対する毒物を使って微生物を殺傷する     内服・注射・塗布・洗浄など生体に直接作用させて使用     > 生体に対してもダメージが起こり得る     薬剤の抗菌スペクトル・微生物の薬剤耐性により無効な場合がある     !耐性菌の出現 4.在宅療養での感染対策のポイント  1)対策の範囲と内容の見極め    「本当に感染の危険があるもの」を見極めて対策する    ご自宅・ご家族に生息する微生物は「常在菌」 > 免疫獲得 > 感染危険性は低い    医療者が感染源として最も危険な存在    < 他人 = 非常在菌を持ちこむ 他の患者と接触 = 病原体と接触    ご家庭は生活の場 > 余りに違和感・経済的負担が大きい対策は受け入れ難い        > 最もコスト対効果が良く適切な方法を選び実行 「安くて効くスマートな感染対策」     > コストをかけずに感染を避ける手技も必要     Ex. オムツ交換 手袋せずにするには?  2)コスト意識    感染対策に必要な物品などのコストは利用者負担 < 健康保険適応外    > コストが安く確実で、かつ生活の中でなるべく違和感がない方法を選択する     > 手洗いが最も安く確実 5.たんぽぽ訪問看護ステーション感染対策ガイドライン(CDC準拠) !全ての対策は、(感染の有無に関わらず)全ての利用者様に常時行う  1)ケア対象者毎に例外なく、ケアの前後にお宅で手洗いする    例え「汚染していない」と考えられても例外なく実施する    < 利用者様に習慣として受け入れて頂くため 慣れれば違和感ない    石鹸はできるだけ、たんぽぽ備品を持参して使う    < 石鹸自体は消毒能力はない 病原体が繁殖している危険性もある    タオルはたんぽぽ備品を持参し使う 原則としてお宅のものは使わない    < 利用者様宅での管理が衛生的か不明 > 感染源となる危険がある    帰所後はできるだけ肘(接触した可能性がある所)まで洗う    指輪は外す 腕時計は外して使う(汚染したら消毒)か、防水のものとして洗う    !汚染したまま使えば感染源 指輪やバンドの裏などは病原体の温床  2)汚染が予想されるケアの前に、エプロン・グローブなどを着用する    ユニフォームから汚染が浸透してナースの身体に汚染が及ぶ危険を避ける  3)万一手などが汚染した場合は、その場で直ちに手洗いする    Ex. 排泄処置後や褥創処置後は、基本的に他のケアの前に手洗いする    !お尻を触った手で顔を触られたら?  4)使用物品はできるだけ利用者様ごとに専用化、できなければ対象者毎に消毒する    体温計などはお宅にあればそれを使う    たんぽぽ備品を使ったら毎回、できるだけその場で消毒する    > 体温計・聴診器・メジャーなど エタノール清拭    血圧計はなるべく袖の上から巻く    > 直接接触を避ける 患者様の違和感を和らげる効果も期待できる  5)必要物品などはできるだけ不潔と考えられる場所に置かない     ノート・ファイル・聴診器などは置く場所に注意する    なるべく利用者様のベッドには乗ったり座ったりしない    !人様のベッド・布団に乗るのは失礼でもある    清潔扱い:きれいに拭かれたテーブル・台などの上    不潔扱い:ベッド・寝具上(特に寝たきりの場合) 床 椅子の座面         不潔場所に置いた物品は不潔 訪問かばんは床に触れた部分は不潔扱い  6)汚染した物品はできるだけその場で消毒または破棄する    原則としてグローブなどは使い捨て、利用者様のお宅で廃棄(燃えるごみとして)    エプロンなどリネン類は汚染した面を内側にして収納し持ちかえる  7)病原体による汚染が明らかな備品は帰所後すぐに消毒・滅菌または焼却破棄する    ユニフォーム・エプロン・タオルなどは汚染したらオートクレーブにかける    汚染病原体が明らかで抗菌スペクトルが適合すれば消毒剤も可    備品の購入時は汚染時の処置に適しているかも検討する  8)病原体による汚染の危険性が低いユニフォーム・リネン類は通常の洗濯とする    常在菌程度は洗濯により洗浄され希釈されるか消失するので問題ない    !洗濯物を詰め込みすぎると洗浄が不充分になるので注意 以上