重症免疫不全症(SCID)の一つ・ADA欠損症は、1990年に米国NIH(米国立衛生研究所)で人類史上初の遺伝子治療が施された疾患です。
日本でも1995年に北海道大学医学部付属病院で、この疾患の患児にわが国初の遺伝子治療が実施されています。
ADA欠損症は、アデノシン・デアミナーゼ(ADA)という酵素の遺伝子に先天的な異常があるために細胞が代謝異常を起こし、特にリンパ球が減少する等により重篤な免疫不全を起こし、無治療なら乳児期にほとんどが死亡する疾患です。
それに対して従来は、骨髄移植か、ADA遺伝子が本来作るはずの酵素:アデノシン・デアミナーゼを補充する「酵素補充療法」だけが治療法でした。しかし骨髄移植が可能な症例・状況は限られ、酵素補充療法は一生続ける必要がある上に年間数千万円の費用がかかるとも言われ、どちらも大きな問題を抱える治療法でした。
そこで、足りないアデノシン・デアミナーゼ遺伝子を患児の細胞に取り込ませることが考えられました。
具体的には、患児の血液中からリンパ球だけを採取し、これを研究室で培養しながら、リンパ球にアデノシン・デアミナーゼ遺伝子を搭載したウイルスベクターを作用させ、リンパ球に治療用遺伝子を導入します。そしてリンパ球に遺伝子が導入され、異常がないことを確認した上で、患児に骨髄移植同様に点滴注射して戻します。
北海道大での遺伝子治療臨床実験では、約1年半に渡り11回の遺伝子導入リンパ球の点滴が行われました。
アデノシン・デアミナーゼはごく少量で足りるので、比較的少数のリンパ球でも治療用遺伝子が導入できれば、治療効果が期待できます。
結果的には、北海道大で治療を受けた患児はADA酵素補充療法は低用量で続けているものの、現在は小学校に元気に通っているとのことです。
また、その後の研究により、ADA酵素補充療法を完全に中止できる、つまり実質的な「先天性遺伝子疾患の完治」の可能性も示唆されています。
まだまだ前途は長いながら、遺伝子治療は、難病特に遺伝子変異による先天性疾患の根本的治療法として期待され始めています。
すなわち、たとえ遺伝子に問題があっても、遺伝子治療により、その遺伝子の働きを補ったり、あるいは適切にコントロールすることができれば、患者自身は病苦から解放される、という可能性が垣間見えてきているのです。
これは、遺伝子治療が抱える「生命進化、生命のありかた」という極めて重い倫理的問題を解決しつつ、患者の苦しみを救うために、極めて重要な希望なのです。
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