地球上のある地方のある部族では、鎌形赤血球症(サラセニア)という先天性の遺伝子疾患が多く発生します。これは、赤血球の中にあり酸素を運ぶタンパク質であるヘモグロビンの遺伝子が変異し、ヘモグロビンが変化し赤血球の形も鎌のような三日月形になり、重症の貧血を起こす病気です。
さて、この地方には熱帯性の致死性の伝染病・マラリアも多く発生します。ところが、鎌形赤血球症の患者は、マラリアにかかりません。
その結果、「鎌形赤血球症ではない子供はマラリアで死ぬ確率が高い。鎌形赤血球症の子供はマラリアに罹らず成人できる」ということが起こります。
つまり「成人し子供を残すまでの死亡率:鎌形赤血球症患者<正常者」なのです。病気の方が、長生きすると!
成人しなければ、子孫を残すことができず、いずれ部族は滅びます。しかし成人すれば、貧血でも子孫を残すことはできます。
つまりこの地方では、「鎌形赤血球症の方が、生存し子孫を残すために有利」なのです。
つまり、この地方でこの部族にとっては、「鎌形赤血球症の遺伝子は、生存に有利な良い遺伝子」ということになるのです。
生命体が生きる環境は変化します。それに対応するためには、色々な遺伝子があり、多様な身体機能・性質を持った種の集団の方が有利になります。
そのため生命体は、ウイルスや細菌のように「遺伝子の突然変異を頻繁に起こす」ことや、人間などの多くの動物のように「交配し自分と違う子を作ることで遺伝子を変える」ことで、「遺伝子の多様性」を保つように進化しました。
遺伝子の多様性を維持する、どのような遺伝子も残す、しかし苦痛は取り除く。ということは、遺伝子治療を進める上で、とても大切な考え方になります。
今は良くないと思える遺伝子でも、未来には役立つ遺伝子かも知れません。あるいは、ところ変われば、役立ったり役立たなかったりするかも知れません。
たとえば、時代劇の中でミラノファッションのスーパーモデルが登場したらおかしなことになりますが、ブロードウェイを歩いていたら。
遺伝子も、それと同じです。周りの状況によって、価値判断されているだけに過ぎないのです。ですからそこには、「異常」「悪い」という発想自体が、本来存在しないのです。
実は、あなたの中にも、病気の遺伝子が最低でも10個近く、眠っています。
ただ、遺伝子はその「フェイルセーフ機構」つまり「2組の遺伝子を常に持つ」ことで、不利な遺伝子を働かせずにいる、それだけのことなのです。
あなたの中の、あなたにとって「今は」不利な遺伝子。
でも、あなたの最愛の子孫たちにとっては、それが必要となる未来が、あるかも知れません。
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