たとえば外科手術では一つの目的の手術でもさまざまな術式があるように、遺伝子治療にはその対象疾患ごとに「プロトコル」と呼ばれるさまざまな方法・治療戦略があります。
先天性疾患
先天性疾患は、多くは必要な遺伝子が無い・変異して正常に働かないことにより起こります。
そこで先天性疾患の治療戦略としては、必要な遺伝子・変異していない遺伝子を足して機能を補うことが、基本的な戦略です。
ガン
癌の治療戦略には、さまざまな戦略が考えられています。基本的には、「癌化を抑制する」「癌細胞を自殺させる」「免疫強化」「治療薬の副作用回避」が戦略です。
難病など
難病であるAIDSや、筋萎縮性側索硬化症(ALS)・パーキンソン病などの神経変性疾患などの治療戦略は、さまざまな方法が考えられています。
血管疾患や神経変性疾患は特に、破壊された組織を修復する必要性もあるため、再生医療とも関わる方法が研究されています。
[図表:疾患と遺伝子治療の主なプロトコル]
遺伝子治療の主な戦略とプロトコル 2003.5.4/5.13/5.15
クオーレACCT合資会社 五十嵐 直敬
※おもに国内でヒトに実施されたものをあげているが、一部海外のもの、動物実験を含む。
実施疾患の例 戦略の概要 方法(プロトコル) ポイント
ADA欠損症、X染色体連鎖重症免疫不全症 欠けていたり変異して働かない遺伝子を補充する 患者から取り出したリンパ球に、必要な遺伝子をウイルス・ベクターによって導入後,点滴し自家移植 体外で導入するため、安全性が高い
同上 患者から取り出した血液幹細胞に、必要な遺伝子をウイルス・ベクターによって導入後,自家骨髄移植 遺伝子導入した血液幹細胞の増殖により効果が半永久的と期待される.他の先天性疾患に応用できる可能性あり
肺がん,食道がん がん化抑制遺伝子をがん細胞に導入する p53遺伝子など、細胞のがん化を抑制する遺伝子をウイルス・ベクターに搭載後、腫瘍に直接局所注射または吸入・内視鏡的撒布
前立腺がん がん細胞だけに特別な代謝酵素の遺伝子を導入し,内部から自滅させる(自殺遺伝子療法) 薬剤前駆体(代謝されると薬剤になる物質,プロドラッグともいう)の代謝酵素の遺伝子をウイルス・ベクターに搭載し、局所注射などでがん細胞だけに導入。薬剤前駆体を投与すると前駆体が細胞内で抗がん剤に変化する 遺伝子導入できなかった近隣のがん細胞も死滅する(バイ・スタンダー効果)
リンパ球を強化(免疫細胞強化) 患者のリンパ球を体外に取り出し培養しながら、免疫を活性化するインターロイキンなどの遺伝子を導入後,点滴し自家移植 (削除)
悪性グリオーマ がん細胞に免疫活性化物質を産生させ,リンパ球を呼び寄せる(免疫応答強化) 免疫を活性化させるインターフェロン等の遺伝子を搭載したベクターを腫瘍局所に注射
腎がん、神経芽腫 がん細胞に免疫活性化物質を産生させてワクチンとする(遺伝子ワクチン) 患者からがん細胞を取り出し,インターロイキン等の遺伝子を導入して免疫を活性化.このがん細胞をワクチンとして皮下接種 (削除)
乳がん 抗がん剤による副作用を軽減させ、より強力な化学療法を行えるようにする 患者から取り出したリンパ球にMDR1遺伝子(多剤耐性遺伝子)などを導入し、抗がん剤への薬剤耐性を新たに与えて患者に戻す.その後強力な化学療法を行う 他の治療の支援のために遺伝子治療を補助的に用いる
AIDS 遺伝子ワクチン療法ほか エイズウイルスの遺伝子の一部をウイルスベクターに搭載し筋肉注射する 日本では実施中止(ベクターの安全性に疑問が生じたため)
筋萎縮性側索硬化症(ALS) GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)遺伝子などにより神経細胞死を防ぐ GDNF遺伝子などをアデノウィルスベクターにより筋肉注射すると、神経筋接合部を介して神経にGDNFが運ばれると期待される 動物実験中
パーキンソン病 ドパミン産生酵素遺伝子により減っているドパミン産生を補う ウイルスベクターを患者の脳に定位的(正確に位置を決めて)に注射し脳神経細胞にドパミン遺伝子を導入する。 動物実験中
閉塞性動脈硬化症 血管を新生させる遺伝子により血管を再生 HGFなどの遺伝子をプラスミド・ベクターに搭載し患部に局所注射 再生医療に近い考え方.他器官の治療にも可能性あり
狭心症(PTCA)、心筋梗塞 血管の修復にかかわる物質の遺伝子により、PTCA後や心筋梗塞後の冠血管再梗塞を予防 HGFなどの遺伝子をプラスミド・ベクターに搭載.PTCAカテーテルのバルーン部分にベクターを塗布し、PTCA時に血管内壁に擦りつける 予防的な治療として実施も可能
狭心症(PTCA)、心筋梗塞 血管病変に関わる遺伝子に蓋をして働けなくする アンチセンスDNAを心カテーテルのバルーンに塗布し,PTCA時に血管内壁に擦りつけ,標的遺伝子に蓋をする。 予防的な治療として実施も可能
疾患の原因遺伝子の転写を邪魔して働けなくする デコイDNAをカテーテルのバルーン部分に塗布し,PTCA時に血管内壁に擦りつけ,標的遺伝子の転写を邪魔する。 同上
疾患の原因遺伝子を切断し破壊 リボザイム(mRNAを切断し遺伝子の働きを邪魔する一種の酵素)を遺伝子導入より病変部位の細胞に作らせる 白血病、ガンなどに応用研究されている
siRNA/RNAi(siRNA:small interfering RNA)により疾患原因遺伝子を抑制(?) 特殊なRNAにより、疾患の原因となる遺伝子の働きを邪魔できる(?) 近年発見されたばかり。可能性は未知。
クオーレACCT合資会社 遺伝子治療・再生医療情報センター
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